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ヘリコプター (25840 views - Transportation - Air Water Earth)

ヘリコプター(英: helicopter)は、エンジンの力で機体上部にあるメインローターと呼ばれる回転翼で揚力を発生し飛行する航空機の一種であり、回転翼機に分類される。 空中で留まる状態のホバリングや、ホバリング状態から垂直、水平方向にも飛行が可能であり、比較的狭い場所でも離着陸できるため、各種の広い用途で利用されている。 日本語では「ヘリ」などと呼ばれる。「ヘリコプター」の名前はギリシャ語の螺旋 (helico-,ヘリックス) と翼 (pteron,プテロン) に由来している。 英語では「chopper」または「helo」あるいは「whirlybird」と表記される。
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ヘリコプター

ヘリコプター

ヘリコプター

Licensed under Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 (© Raimond Spekking / CC BY-SA 4.0 (via Wikimedia Commons)).

ヘリコプター: helicopter)は、エンジンの力で機体上部にあるメインローターと呼ばれる回転翼で揚力を発生し飛行する航空機の一種であり、回転翼機に分類される。

空中で留まる状態のホバリングや、ホバリング状態から垂直水平方向にも飛行が可能であり、比較的狭い場所でも離着陸できるため、各種の広い用途で利用されている。

日本語では「ヘリ」などと呼ばれる。「ヘリコプター」の名前はギリシャ語螺旋 (helico-,ヘリックス) と (pteron,プテロン) に由来している。 英語では「chopper」または「helo」あるいは「whirlybird」と表記される。

概説

ヘリコプターはローターの迎角(ピッチ角)と回転面の傾きを調整することによって、非常に複雑な運動が可能である。例えば、垂直上昇や垂直降下、空中停止(ホバリング)のほか、機体の向きを保ちながら真横や後ろに進む事もできる。また後述のローターヘッドの形式により、宙返りなどの曲技飛行ができる機体もある[1]

このようなヘリコプターの特徴は狭い場所や複雑な地形での活動に向いており、人員や貨物のさまざまな輸送に利用されている。ラジコン玩具も、電子ジャイロの小型化、高性能化により複雑な姿勢制御が容易となり、狭い空間でも飛ばせる事から、趣味としての人気も高い。また自動制御のロボットヘリも観測や農薬散布用などに実用化されている。

しかし、翼の固定された航空機固定翼機飛行機)に比べると、一般に速度が遅く、燃費も悪く航続距離も短い。また、北米ではヘリコプターの騒音が社会問題になっている。この点を改善しようという試みが、ティルトローター機やティルトウイング機である。

耐空性審査要領第1部「定義」によれば、ヘリコプターは「重要な揚力を1個以上の回転翼から得る回転翼航空機の1つである」と定義されている。

歴史

ヘリコプターの研究は遠く紀元前中国竹トンボに始まって、15世紀レオナルド・ダ・ヴィンチスケッチ、さらには18世紀 - 19世紀ジョージ・ケイリーヤーコプ・デーゲンらの模型を経て、何人かの実験家による蒸気機関を積んだ試作機製作と進められたが、実際にパイロットを乗せローターを使って地上を離れたのは20世紀になってからの事である。トーマス・エジソン燃焼反動を利用したヘリコプターを研究したが、爆発事故が発生し、幸い負傷者は出なかったが研究を打ち切っている。

固定翼機が登場し、ヘリコプターが実用化されるまでの間に、オートジャイロが現れ、回転翼の挙動に関する空気力学機械工学的な知見が得られた。

1901年ドイツヘルマン・ガンズヴィントは現在のヘリコプターに相当する動力で回転する回転翼を装備した航空機に2名を乗せて15秒間の浮上を実演した[2]

1907年フランスモーリス・レジェルイ・ブレゲーポール・コルニュらが相次いで多少のホバリングに成功した。オーストリア=ハンガリー帝国にて、1917年PKZ-1という4つのローターを持ったヘリコプターが、1918年にはPKZ-2という二重反転ローターのヘリコプターがセオドア・フォン・カルマンらによって開発され、それぞれがホバリングに成功した。

実際に、きちんと飛行できるヘリコプターが最初に飛行したのは、ハインリヒ・フォッケにより1937年ドイツベルリンで開発されたフォッケウルフ Fw61である。アントン・フレットナーもヘリコプターの開発に貢献する。

ロシアから米国へ亡命したイーゴリ・シコールスキイもヘリコプターのパイオニアの一人で単ローター、尾部ローター付という、今日の反トルク・テール・ローター形式の基礎となった、VS-300を1939年に初飛行させた。これの発展型R-4第二次世界大戦末期に米軍で用いられたといわれる。

実際に回転翼機で垂直上昇/垂直着陸/空中静止(ホバリング)を得るには重量あたりの出力が小さいレシプロエンジンでは限界があり、十分な実用性能を得るためには軽量で高出力なガスタービンエンジンの採用を待たねばならない。飛行機の発明者オーヴィル・ライトも、1936年の書簡中でヘリコプターは実用的でないとしている。

1951年12月11日チャールズ・カマンカマン K-225ボーイング502ターボシャフトエンジンを搭載した。従来のレシプロエンジンに比べて大幅に向上した。1951年、カマンのK-225は世界初のガスタービンエンジン式ヘリコプターになった。この機体は現在、スミソニアン博物館に保存されている。2年後、1954年3月26日、改良型の海軍のHTK-1は飛行した初の双発タービンヘリコプターになった。1955年にフランスのシュド・エスト SE.3130 (Alouette II) が世界最初に量産されたガスタービンエンジンを搭載した量産ヘリとして登場し[3]、いくつかの世界記録を塗り替えた。これ以降、ジェット・ヘリというヘリコプターの一分野が作られてゆく。

軍事目的では、第二次世界大戦末期に実戦投入され、英領マレー(現マレーシア)での対ゲリラ戦や朝鮮戦争でも利用されているが、その用途は連絡や哨戒、航空救難など補助任務にとどまり、本格的な運用としてはジェット・ヘリが実用化されて以降のベトナム戦争が初めてである。以後、ヘリは航空戦力として必要不可欠な存在となった。

日本では、1903年に歌人・発明家の丸岡桂が制作した人力式の『昇空器』[4][5]や、1937年ごろに馬淵清一が制作した『馬淵式ヘリコプター』の記録があり、1944年には横浜高等工業学校で広津万里教授が助手や学生の協力を得て、双ローター形式のヘリコプター特殊蝶番レ号を開発した記録があり[6]1945年には在日の米進駐軍が使用し日本人を驚かせた記録が残っており[7]、1952年に読売 Y-1萱場ヘリプレーン萩原JHXヘリコプターが開発されたが、どれも飛行には至らなかった。[6]全日本空輸の前身である日本ヘリコプター輸送が1952年12月27日に宣伝活動を目的に設立されている。1988年6月20日 - 1991年10月18日まで、シティエアリンク羽田成田を結ぶ路線を運航していたが、一般の飛行機に比べ騒音や運航コストが高く、航空路線としては不採算なため廃止となった。 1995年にゲン・コーポレーションによって1人乗りのH-4の試験飛行が実施された。その他には国内の愛好家が製作したホームビルト機で実際に飛行した例が複数ある。

2015年現在、東邦航空により八丈島 - 御蔵島 - 三宅島 - 伊豆大島 - 利島の往復と、八丈島 - 青ヶ島の往復で東京愛らんどシャトルと名付けられた定期航路が運航されている。これが日本で唯一の定期乗合ヘリコプター航路である。

香港マカオではこの2点間を結ぶヘリコプターの定期航路(香港エクスプレス航空)があり、かつてこれは世界で唯一のヘリコプターによる国際線の定期航路であったが、どちらも中国に返還されたため、現在では(出入境にパスポートが必要ではあるものの)国内便として運航されている。その他、利用客の多い定期路線としてはモナコ - ニースフランス)間やバンクーバー - ビクトリア間などがある。

ヘリコプター用語

構造

メインローター
機体上部で回転する翼のことで、これが回転翼の名称由来になっている。回転する事により飛行に必要な揚力を得る。また、回転面を傾ける事により、前後左右の飛行が可能となる。エンジンで生み出された動力は、メイン・トランスミッションを介して望ましい回転数まで減速させてからメインロータを300〜400rpmで回転させて飛行する。また型式や配列により、いろいろな種類に分類される。
テールローター
機体尾部にある小さな回転翼。メインローターが回転することで、機体が反作用によって逆回転方向の反作用「反トルク」(逆トルク、アンチ・トルク)を受ける。このままでは、機体が回転して操縦不能となるため、機体尾部に長く伸びた先のテールローターによって横方向に押す力を生み出し、メインローターの回転とは反対方向に回転力を与え、機首方向の安定を図る。また、テールローターの回転翼のブレードの迎え角の角度を調整することにより、それが作る推力を加減することによって機首方向を変化させるのにも使用される。テールローターはエンジンからメイン・トランスミッションで望ましい回転数まで減速され、テールロータードライブシャフトを介してテール・トランスミッションでさらに回転数を減速した後に駆動されており、1,300-2,100rpm程度の回転数で常に回っている。型式や配列によっていくつかの種類がある(後述)[8]
スワッシュプレート
コレクティブピッチ・レバーまたはサイクリックピッチ・スティックの操作(後述)をメインローターのブレードに、ラダーペダルの操作(後述)をテールローターのブレードに伝達する機構であり、ローター・マストと共に回転している側のスワッシュプレートと機体側に固定されローター・マストとは回転せず操縦装置と繋がっている側のスワッシュプレートで構成されており、両者はベアリングを介して結合している。機体側の操縦装置のリング機構とローター側のブレードとの間に設けられており、メインローターでは、ローターヘッドの下部にあるメインローターシャフトに、テールローターでは機体後方のテールブームから横に伸びるテイルローターシャフトに取付けられている。実際の操作の伝達は、まず操縦装置と繋がっているリング機構からスワッシュプレートに伝達され、そこからピッチリングとピッチアームを介してブレードに伝達されることで、ブレードの迎え角の変化を伝達できるようになっている[8]
前進または後退側ブレード
ヘリコプターが前進飛行状態にあるとき、ブレードを識別するために用いられる。前進ブレードとはローターの回転によりヘリコプターの進行方向に前進するブレードをいい、後退ブレードとはローターの回転によりヘリコプターの進行方向と反対の方向に動くブレードをいう。
翼型
ヘリコプターでは通常はメインローターの回転翼断面形状を指すが、テールローターにも翼型はある。主に空気力学的に効率良く揚力を得るための形状となる。
フリーホイールクラッチ
エンジンの駆動パワーを自転車のペダルのように一方向へしか伝えない機構。ヘリコプターは飛行中エンジンが停止しても、正しい手順に従えばローターを回転させ続け穏やかに地面に降りることができる。しかしこの時エンジンとローターが三輪車のペダル如く固定されていると、停止したエンジンが逆に抵抗になってしまう。これを防ぐためフリーホイールクラッチが搭載されている。(ただし、それが仇となりエンジンが停止することがある)。フリーホイールクラッチにはローラー型とスプラグ型があり、エンジンからのインプットシャフトとメイン・トランスミッションの間に装備される。構造としては、エンジン側の外輪とトランスミッション側の内輪とが、同じ方向に回転する場合には動力が伝達されるが、エンジン側が故障や出力の減少などで回転数が減少して、エンジン側の外輪の回転がメイン・トランスミッション側の内輪の回転より遅くなった場合には、動力の伝達が解除される仕組みとなっている[8]
遠心クラッチ
ヘリコプターのメインローターは非常に重いため、飛行機のようにスターターでプロペラごとエンジンを回転させ始動させることは出来ない。そこで、エンジン始動時でのエンジン回転数が低い時では、エンジンとメイン・トランスミッションを切り離しておき、エンジン回転数を大きくすると、エンジン出力をメイン・トランスミッションに伝えるクラッチである。ピストンエンジンで駆動されるヘリコプタに搭載されており、構造としては、エンジンと結合されたクラッチスパイダーに取付けられたクラッチシューが、遠心力により外側に押出されてメイン・トランスミッション側の遠心クラッチドラムに固着すことで動力伝達を行う仕組みとなっている[8]

操縦法

コレクティブピッチ
略称でCPとも表す。メインローターまたはテールローターのブレードの迎角を同時に変化させることにより、上下方向のまたは左右方向の揚力を同時変化させる事を言う(例として竹とんぼは迎角を変化させられないので、回転が高速であればあるほど高く上昇する)。これにより、上下方向や左右方向の操縦を行う事ができる。メインローターではコレクティブピッチ・レバーでこの制御を行い、テールローターでは操縦席下部の左右にあるペダルで行う。
サイクリックピッチ
周期的にメインローターのブレードの迎角を変化させる事により、ロータの回転面の揚力の方向を変える事を言う。コレクティブピッチが同時に迎え角を変化させるのに対し、回転のある一点で迎え角を変化させる。この事で、回転面を任意の方向に傾ける事ができる。また、速度が増すに従い、揚力の左右不均衡が生じるのでこれを打ち消すために、回転のある一点で周期的に迎え角を変化させる事をいう(→#飛行速度の限界)。操縦桿(サイクリック・ピッチ・スティック)でこの制御を行う。
迎角
翼型の翼弦線(コードライン)と相対風によって形成される鋭角をいう。前進や後退といった水平飛行中には、メインローターブレードは回転に伴って迎角が逐次変えられる。
取付け角
翼型の翼弦と機体の縦軸によって形成される鋭角をいう。ほとんどのヘリコプターにおいてこの角度は機体が水平飛行の場合連続して変化する。それぞれのブレードは回転サイクルを行いながら、ある範囲のその角度に変化する。
ホバリング
地上から見てヘリコプターが空中の一点に留まっている状態とその能力を指す。この状態は前後、上下、機首方向の全てにおいての対地速度がゼロの状態である。風がある場合にはそれに対応した操作が求められ、対気速度が生じる。この飛行方法により、救難活動や物資の吊上げなど多彩な運用が可能である。特に強風下での救難活動や、高度が高い山岳地(4000~5000m位が限界)などでのホバリングは、空気が薄いため揚力を得るのが困難で、高度な操縦技量が要求される。したがってエベレスト登山にはヘリコプターでの支援は望めない。
IGE、OGE
メインローターに吹き降ろされた空気がメインローターと地面の間で圧縮され、少ない揚力でホバリングできる。IGE[9]地面効果内の意味、OGE[10]は地面効果外の意味である。IGEは気流が乱れるため、機体が安定しにくく、OGEはメインローターの直径の半分以上の高さでなくなる。
トランスレーショナルリフト(転移揚力)
ホバリングの最中に前進操作を行い、ローター面に空気流入量が増え揚力が増す。前方からある程度風が吹いている場合はホバリングを行っている間でも揚力を受けているため、サイクリックを前方操作して機首が上がらないように抑えて対気速度を増して加速・上昇する。
トランスバースフローエフェクト(貫流速効果)
ブレードの先端付近では空気は下方向よりもむしろ渦状に流れる。前方から風が吹いている場合、この渦を流れる量が変化し、揚力に不均衡が生じる。それ以外にも、風によりメインローターの角速度が前方と後方で異なり揚力に不均衡が生じる。これらの不均衡や、渦状の空気の流れの変化によるジャイロ効果の結果、機体が左右に傾いたり機種の方向が変化したりする。
セットリングウィズパワー(ボルテックスリングステート
対気速度が少ない、または背風の時に垂直に降下するローターで作り出した空気の中にローターが入って揚力が下がり急降下する。コレクティブを下げたり、サイクリックの前方操作で回避する。
オートローテーション(自由回転飛行)
エンジンが停止しても降下を続けることでメインローターを回転させ、安全に降下飛行を続ける状態をいう。旋回や降下率をある程度制御できるので、安全に着陸できる。これにより、エンジン停止などの緊急事態の際、地上の一点に着陸させることが可能。固定翼機(通常離着陸機)が長大な着陸場所を必要とするのに対し、広い着陸場所を必要としないので、運用上非常に都合がよい。しかし、この状態での着陸は、極めて高度な操縦技量が要求されるのは言うまでもない(→#ヘリの飛行特性)。

ヘリコプターの動力装置の分類

ヘリコプターの動力装置には、ピストンエンジンターボシャフトエンジンの2種類が使用されており、両者とも減速装置(トランスミッション)を介してローターを駆動させる。ピストンエンジンは、燃料消費量が少なく、安価であるが、振動が大きく、出力当たりの重量やエンジン自体の容積が大きい。ターボシャフトエンジンは、振動が小さく、出力当たりの重量やエンジン自体の容積が小さいが、高価であり、燃料消費量が多いが、その問題は技術の進歩により問題ではなくなってきている[8]

ピストンエンジンとターボシャフトエンジンではエンジンコントロール系統は異なっており、以下のようになる。

ピストンエンジンの場合
エンジン回転数を一定に保ちながら、必要な馬力に応じてエンジンのスロットルを開閉させて出力トルクを増減させるため、コレクティブピッチレバーの位置に連動してエンジンのスロットルが動くようになっており、コレクティブピッチレバーの先端には、コレクティブピッチレバーの位置はそのままにエンジンの回転数だけを修正するスロットルコントロールグリップがあり、グリップを回すことでエンジンのスロットルが動くようになっている[8]
ターボシャフトエンジンの場合
エンジン自体に、機体側に掛かる負荷に対して常にエンジン回転数を一定に保つ燃料コントロール装置が装備されており、エンジン回転数の制御はエンジンをカットオフからフライトアイドルまでを制御するスロットレバーとフライトアイドルから最大出力までを制御する回転数コントロールレバーにより行われるが、エンジンの種類によっては、これらのレバーを1本のレバーにまとめたものがある。そのため、エンジン回転数を制御するには、コレクティブピッチレバーに連動して回転数コントロールレバーを動かす必要がある。また、コレクティブピッチレバーの先端には、エンジンの回転数を任意に制御できるビーブトリムスイッチがある[8]

基本的な操縦法

ヘリコプターの操縦席は、ほとんどが機体前部に左右2座席備えられており、それらは左右で同じレイアウトのコレクティブピッチ・レバーやサイクリックピッチ・スティックが、機械的に連動されている[11]。ただし、副操縦士を伴わないで飛行することも多いため、機長席側だけに装備している場合も少なくない(副操縦士側の装備は、比較的簡単に取り外しできる場合が多い)。

尚、多くのヘリコプターでは、固定翼航空機と異なり、右側が主操縦席(機長席)で左側が副操縦席となる。これは、左側席では計器類が座席の右側になるため、これらを操作するたびに繊細な操作が要求されるサイクリックピッチ・スティック(略称:サイクリック = 操縦桿)から手を離さなければならず、その都度左手で操縦桿を持ち直す必要がある。この煩雑さを避けるため、また安全性の点から、ほとんどの機種で機長席を右側に設定していると言われている。

前後左右への進行方向の操縦はサイクリックピッチ・ステックを右手で操作することで、スワッシュプレートとピッチリンク介してメインローターの回転面の傾きを調整して行う。上昇下降方向の操縦は左手でコレクティブピッチ・レバー (CP) を操作することで、スワッシュプレートとピッチリンクを介してメインローターブレードの迎角を増減して行う。つまり、固定翼機と異なり、“離陸のためにエンジンを吹かし対気速度を上げる”という概念はない(これをやっても単にローターの回転数が上がるだけで、迎角も操作しなければ意味がない)。

ローターの回転軸を中心にした機首方向の調整は、両足を用いて左右のラダーペダル(アンチトルクペダル)を操作することで、スワッシュプレートとピッチリンクを介してテールローターブレードの迎角を増減させて行う。

一例として、単発エンジン搭載のシングルメインローター(ローター回転方向は機体を上から見て反時計方向)という条件であれば、上昇のためCPを引き上げるとメインローターのトルクが増大して機体が右に回り始めようとするので、機首方位を保つために左ラダーペダルを踏み込み、テールローターの推力を増大させてこれを打ち消す必要がある。

同時にテールローターの推力が増大すると機体が右側進を始めるので(ドリフト)、サイクリックを左に操作して右側進を止めなければならない。これら一連の特性をカップリングという。

エンジンの出力制御は、CPレバーのグリップや多発機などでは天井にあるレバーで行うが、ピッチ増減によるエンジン回転数の制御は、ターボシャフトエンジン機の場合、エンジン回転数を一定に保つ燃料コントロール装置により、燃料量の制御が自動的に行われ補正されるので、スロットルグリップによる回転数の制御は不要である[注 1][12]ピストンエンジン機も、エンジンガバナー(回転数補正機構)が装着されていれば、ある程度までのピッチ増減は自動補正が可能である。

しかし、操作量が大きい場合やエンジンガバナーがない機種の場合などはCPレバーのスロットルグリップも操作して常に適正回転数に保つ必要がある。パイロットはこれら全ての飛行状態において、両手両足で3つの舵を調和させて操縦しなければならない(スロットルを開け、かつCPを引き、同時に左ペダルを適度に踏み込み、更にサイクリックも左に適度に押し続ける)。

メインローター

メインローターの翼の1枚1枚をブレードと呼ぶ。このブレードは固定翼機での主翼とエレベーターやエルロンの機能を兼ね備えており、進行方向と対気速度、上昇や下降運動中や加減速運動、ブレード自身の回転に対する加減速によって複雑な動きをする。

ブレードはローターヘッド、又はハブと呼ばれる回転軸の取り付け部に取り付けられている。ヘリコプターには全関節型、半関節型、無関節型、ベアリングレス型のローターヘッド形式がある(後述)。

メインローターブレードの形状と種類による分類

ヘリコプターに使用されるメインローター・ブレードの翼型(ブレードを横から見た断面)は、飛行機の主翼とほぼ同じであるが、ヘリコプター用の翼型には次のような特性が要求されている。

  • 揚抗比(揚力と抗力の比)が大きいこと
  • ブレードの対気速度が音速に近付くと空気の圧縮性により、衝撃波が発生して抗力が急増するが、この速度ができるだけ高いこと
  • 失速がしにくく、大きな揚力が発生すること
  • ピッチング・モーメント(翼をねじる力)が小さいこと

ブレードの平面形(ブレードを上から見た形)においては、長方形翼・先端翼・変形翼の3種類があり、製造が容易な長方形翼が主流であるが、抗力・騒音・安定性などに配慮して、翼端の形状を変化させた変形翼が使用される場合がある。また、ブレードの後縁には揚力バランスの調整のためのトリム・タブが取付けられている[8]

ブレードの種類

ブレードの種類は3種類に分別される。

木製ブレード
前部には重い木材、後部にはバルサのような軽い木材が用いられており、これらを積層接着した合板製としている。外表面は防湿と砂塵などによる損傷を防ぐため、ガラス繊維布が貼られており、前縁にはステンレス鋼などの保護金属板を取り付けている。比較的に製作が容易であり、空力的に洗練された表面の翼型を正確に製作できるが、重量が重くなり、湿気の影響を受け易く、互換性のあるブレードを製作するのが困難である短所がある。ベル47などの初期のヘリコプターに採用されている[8]
金属製ブレード
前縁部にアルミ合金・鋼・ステンレス鋼・チタン合金を使用したスパーと呼ばれる部分と後縁部にアルミ合金・チタン合金・FRPを使用したスキンと呼ばれる部分で構成されている。後縁部の翼型を保つため、その内部にアルミ合金の小骨やハニカム・コアなどを入れており、前縁部には、砂塵や雨滴による摩耗や腐食を防止するための、エロージョン・キャップと前縁ウエイトが取付けられている。木製ブレードに比べて高温・高湿や直射日光に対して強く、ねじり剛性が大きく、薄い翼断面の翼型が製作でき、互換性のあるブレードを量産するのが容易などの長所があるが、翼型の形状を変えるなどの複雑な形状のブレードを製作しにくく、アルミ合金・鋼を使用する際には腐食対策が必要なこと、運用中で発生する傷による疲労強度の低下が著しいなどの短所がある。現在でも多くが使用されている[8]
FRP製ブレード
前縁部にガラス繊維一方向材(ロービング)製のスパーと呼ばれる部分と後縁部にハニカム・コアや発泡材製の充填材を内部に充填したガラス繊維布製のスキンと呼ばれる部分で構成されており、前縁部には、砂塵や雨滴による摩耗や腐食を防止するための、エロージョン・キャップが取付けられており、内部には前縁ウエイトが内蔵されている。ガラス繊維以外の炭素繊維FRPを一部に使用しているブレードもあり、翼型の形状を変えるなどの複雑な形状のブレードを製作し易やすく、柔軟性に富み、衝撃に強く、腐食が発生せず、疲労強度に優れている長所があるが、剛性が低く、製造での機械化が困難なため、製造コストが高くなる短所がある[8]

メインローターブレードの3つの運動

フラッピング
上下方向の動きであり。ヘリコプターのメインローターが飛行中に回転している場合には、ブレードは揚力と遠心力との合力により、上方向にフラッピングしており、回転するメインローター全体の軌跡が逆円錐形になっている。この事を「コーニング」(コーン状態)と呼ぶ。上に反ったブレードの翼端と逆円錐の底面との角度をコーニング角と呼とよんでおり、機体重量が同じ場合において、メインローターの回転数が小さくなれば、遠心力が減少してコーニング角が大きくなり、メインローターの回転数が同じ場合において、揚力が小さくなれば、コーニング角が小さくなる。全関節型のローターヘッドではコーニング角に応じて上下方向にフラッピングするため、ブレードには曲げモーメントは生じないが、半関節型と無関節型のローターヘッドでは、コーニング角に応じて上下方向にフラッピングできないため、最も多く使用されている飛行状態のコーニング角に応じた角度の分だけ、ブレードを上方に角度を取って取付けており、これをプリコーニングと呼んでいる。また、その他の飛行状態でのコーニング角の変化では、ハブまたはブレードに発生する曲げモーメントによるたわみにより、対応できるようにしている。
ドラッギング
回転方向の動きであり。回転方向に個々のブレードが運動するのをドラッギング、またはリード・ラグ運動と呼び、その角度をドラッグ角と言う。エンジン始動時の起動トルクがメインローターにかかるときには最大で25°ほども、ブレードが遅れて角度が付く。通常飛行時には遅れ方向で10°〜15°程度、地上でエンジン停止時には進み方向で3°ほど、オートローテーション時には±0°となる。
フェザリング
迎角の変化。フェザリングはブレードの迎角の変化である。フラッピングとフェザリングは関係が深く、フェザリングとフラッピングの等価性と呼ばれている。これは、サイクリックピッチ操作を行うことで、ヘリコプターがホバリングから前進飛行を始める場合、回転面は操作したピッチ角だけ傾き、ブレードの前進側では、操作したピッチ角だけ迎角が減少して揚力が減少し、ブレードの後進側では、操作したピッチ角だけ迎角が増加して揚力が増加して、回転位置において揚力が不均衡の状態となる。ブレードはその不均衡を解消するため、操作したピッチ角だけ回転面が傾いた時に、ブレードの前進側ではフラッピングによるブレードの降下運動により迎角が無くなり、ブレードの後進側ではフラッピングによるブレードの上昇運動により迎角が無くなることで、回転位置での揚力が等しくなり不均衡が解消されるように出来ている。

ブレードが前後左右のいずれかの位置で常にフェザリング角が大きくなるようにすれば、そちらの側だけ揚力が増すため、メインローターの回転面が傾いてゆく。反対に前後左右のいずれかの位置で常にフェザリング角が小さくなるようにすれば、そちらの側だけ揚力が減るため、やはりメインローターの回転面が傾いてゆく。こういったことを行なうのが、サイクリック(操縦桿)に接続された、スワッシュプレートである。スワッシュプレートはローターヘッドの下部にあって、メインローター軸と一緒に回転しながらサイクリック(操縦桿)の動きにあわせて、ブレードのフェザリング角を常に調整している。メインローター回転面の傾きによって飛行方向が決定されるが、実際の回転面の傾きは「ジャイロプリセッション」より、加えた力の位置から回転方向に90°遅れた方向に現れる[11]

ローターヘッドによる分類

全関節型(: fully articulated rotor
フラッピングヒンジ、ドラッグヒンジ、フェザリングヒンジによって3軸全ての方向へのブレードの動きを可能にしたローターヘッド。ヘリコプターの登場時から現在に至るまで、3枚以上のブレードを持つローターに広く用いられており、すべてのローターヘッドの基本となっているものである[8]
半関節型ローター(: semi-articulated rotor
フラッピングヒンジ、フェザリングヒンジによってブレードの2軸方向への動きを可能にしたもの。ドラッグヒンジを持たないため、回転面方向での進みや遅れの運動はローターヘッド側ではなく、ブレードのたわみで対応する。全関節型に比べ、単純な構造であり、全関節型より動きが制限されたフラッピングヒンジとなっている。この種のローターで実用化されているのは、シーソー型ローターであり、初期のヘリコプターや現在の2枚ブレードのヘリコプターに採用されている。これには降下時の運動制限があり、急激な降下時など、下向きに強い加速の伴う運動では、ローターヘッドが浮き上がりマストが破壊される現象(マストバンピング)が発生するため。急激な頭下げ動作や、起伏の激しい山の稜線に沿って飛ぶ運動が制限されるという大きな欠点もある。
無関節型ローター(: hingeless rotor
フェザリングヒンジによってブレードの1軸方向だけの動きを可能にしたもの。全関節型に比べて構造が大幅に簡単になり、信頼性や整備性が優れているほか、他の方式と比べて操縦性や安定性が向上しており、固定翼機と変わらない曲技的な飛行も可能である。初期のものは、フラッピング・ドラッギングの両方を動きを許さない構造であったが、現在のものは、ローターのハブまたはブレードの付け根の部分を、曲げ剛性を小さくしてたわみ易い部分とし、弾性変形することでヒンジの機能を果たすことにより、ブレードのフラッピング・ドラッギングの両方を動きが可能となっている。この方式は、ブレードの根元に大きな曲げモーメントがかかるため、複合材料による強靭なブレードの製造技術の完成によって初めて実現出来た。欠点として、同じ理由で、ある程度以上大型のヘリコプターには採用困難なことがあげられる。2008年現在では、無関節型だけに限らず、全関節型や半関節型でも複合材ブレードは一般的になっている。
ベアリングレスローター(: bearingless rotor
ヒンジ類を全く持たず、真の意味での「無関節」である。ブレードのフラッピング・ドラッギング・フェザリングの3軸の方向の動きは、ハブとブレード翼面の間の付け根付近の「カフ」部分に「ヨーク」と呼ばれる複合材で出来た板バネ機能を持つ部品が柔軟に弾性変形することでヒンジの機能を果たすことにより行われており、軽量化と長寿命化、安全性の向上と抗力減少、構造の単純化が実現出来る。

今までのローターヘッドでのヒンジ部には、ブレードの円滑な動作のためのベアリングが内蔵されていたが、機能維持のため潤滑などの定期的なメンテナンスが必要で、シール部分から潤滑油が漏れる恐れがあり、故障のリスクも伴うほかに、ブレードの大きな荷重が負荷の揺動運動であるため、長寿命ベアリングの設計が難しく、構造が複雑で重量が大きい問題があった。そこで、最近では金属の薄板とゴムの薄層を何層にも重ねた積層形とし、ある程度の角度範囲でのブレードの動作を許して、ブレードの遠心力による圧縮荷重に耐えられるよう、大きな圧縮剛性と強度を持った、エラストメリック・ベアリングが使用されており、整備性や信頼性の向上が図られている[8][11]。また、ブレードのドラックヒンジには、ドラック・ダンパーまたはリード・ラグ・ダンパーと呼ばれるダンパーがブレードとマストまたはハブとの間に取付けられており、ブレードのドラッキング運動に対して減衰力を与えているが、構造が複雑で重量が重く調整が厄介であり、振動の原因となることがあるため、構造が簡単で重量が軽く、ゴムのせん断変形による粘弾性を利用した、エラストメリック・ダンパーが使用されつつある[8]

メインローターによる分類

シングルローター式
ベル407

シングルローター式

最も一般的な形式。大型機種や特殊なヘリを除けば、ほとんどがメインローターが1つのシングルローター機である。構造が簡単で部品数が減り、重量も軽くできるなどの利点があるが、トルク相殺用のテールローターが不可欠で、それにも馬力を振り分ける必要がある(前進飛行時に約3〜4%;ホバリング時に約10%)。テールローターが地上で人員や障害物と接触する危険がある(ヘリコプターの事故は、アメリカ陸軍の統計によると26%がテールローターが原因とされる[要出典])、重心移動の範囲が狭い、大型ヘリコプターではメインローターの寸法が大きくなる、などの不利な点もある。テールローターの安全性の改善にはノーターフェネストロンもある。

ツインローター式

ツインローター式
同軸反転式 Ka-50
タンデムローター式 CH-47F
サイドバイサイドローター式 Mi-12
交差双ローター式 K-MAX

2個のローターを持ち、それぞれが逆に回ることにより、ローターのトルクの影響をお互いに打ち消す方式。テールローターに余分な出力を割く必要がなく、事故の原因となり得るテールローターが不要なため安全面でも有利であるが、重量面では不利である。配置により次のようなものがある。

同軸反転ローター式
ローターが同軸上に2つあり、互いに反転して回るもの。全長がメインローターの直径のみで決まる事から、全長が小さくなる上、揚力に関係のないテールローターに出力を割く必要がないという利点がある。特に全長が短くてすむ、テールローターが障害物や人員に接触する危険がないという点は、面積が限られる船舶上で運用する際には非常に好都合である。反面、上下2つのメインローターが接触しないようにするためにそれらの間隔を離さねばならず、ローターマストが高くなる(その分、格納庫の天井を高くしなければならない)、ローターハブと操縦装置が複雑になり、重量が増加するという不利な点もある。ロシア(旧ソ連)のカモフ社が得意とするレイアウトであり、前述のような理由から艦載ヘリコプター中心に採用されている。
タンデムローター
ローターが前後に2つ配置されているヘリコプター。縦揺れに対する操縦安定性が高く、前後方向の重心移動範囲も広い利点を持ち、重量物、長尺物の輸送に当たっては特に有利となる。ヘリコプターの重量に対してローターが小さくてすむため、構造的にも有利である。反面、低い前進速度での安定性が低い、ブレード数を増やしづらく騒音低減がし難いなどの不利な点がある。各国・各社で研究・開発されたが、最も成功したのはアメリカのパイアセッキ社で、バートル、ボーイング・ヘリコプターを経て、現在も同形式の代表格かつ、(ライセンス生産を除けば)ほぼ唯一のメーカーとなっている。
サイドバイサイドローター式
ローターが胴体を挟んで並列に配置されているもの。横揺れに対する操縦安定性が高く、ローターが小さく横方向の車輪間距離を大きく取ることができる(従って、地上安定性が良い)。特に、構造重量を増したり抗力を増すことなしに、固定翼を装備できる利点がある。反面、ローターを支持する張り出しや、伝動軸による構造重量の増加や機械抵抗が増える、ローターと固定翼の気流が干渉して揚力を相殺するなどの不利な点がある。前述のFw 61や、旧ソ連のMi-12などが代表格だが、Mi-12のローターはわずかに交差しているため、後述の交差双ローター式との折衷型とも解釈できる。
交差双ローター式
機体直上の近接した位置に2つのローターを持つが、互いに衝突しないよう同調しており、わずかに外側に傾けて取りつけられている。同調機構から「シンクロプター」とも呼ばれる。自律安定性に優れ、テールローターで無駄になる動力が無い為効率が高く、操縦特性が左右同じで機体を小さくまとめる事ができるが、ローター取り付け部や伝動装置が複雑になり、重量が増加するなどの、不利な点もある。アメリカカマン社が得意とするレイアウト。

マルチローター式

ローターが3つ以上あるもので、タンデムローター式とサイドバイサイド式の利点と、全速度域にわたり静的に安定である利点を持つ。

無人のラジコン等には、固定ピッチブレードのローター4つで、それぞれに電動機があり、回転数を独立に制御するような機構が単純な物がある。

動力集中式の搭乗機では、部品数が多くなり、動力を伝達する機構が複雑になる事などから実用性には乏しく、実用機には採用されていない[8]。研究開発は続けられており、2011年にはドイツの企業が16の回転翼を持つ有人機を試作している[13]

回転方式による分類

チップジェット式
翼端に推進装置を取り付けてローターを回転させることで、反トルクを生じさせないようにするものであるが、騒音が大きい、燃料消費が大きいなどの技術上の問題も抱えておりガスタービンエンジンの一般化によって姿を消した。
ホットサイクル式ローター
各種のガスタービンエンジン等からの抽気そのものや、外気と混合してある程度温度を下げた抽気または排気を、耐熱・耐圧チューブなどでローター先端に導き、そこから噴射してローターを回転させる。

テールローター

テールローターの型式

ヘリコプターはローターが回転し、揚力を生み出すことで浮遊する。このとき、機体側がローターを回転させることの反作用として、ローターが機体を逆方向に回転させようとするモーメントが生じる。これは「反トルク」、カウンタートルク、トルク効果などと呼ばれる。この反トルクを打ち消すために、以下のような方法が使われている。

テールローター
尾部に備えたローター(テールローター)により横向きの推力を生み出し、その推力によるモーメントで打ち消す。機体の回転方向と推力の向きの関係により、プッシャータイプ(テールローターの推進力で尾部を押す)とトラクタータイプ(テールローターの推進力で尾部を引っ張る)がある。この方法は、現在のヘリコプターではもっともよく使われる方式である。
ノーター
ノーター[14]ではテールブーム基部のファンにより低圧縮高ボリュームの空気をテールブーム内に送り込む。この空気の一部を(メインローターが反時計回りの場合)テールブーム右側からテールブームに沿って下方向に噴出させ、テールブームの周りにコアンダ効果を利用した気流の循環を作り、メインローターから吹き下ろされるテールブーム左右の空気流に速度差が生じ、擬似翼型を成型することにより空力的揚力(エアロダイナミクスリフト)を発生させ、反トルクを得る。
またテールブーム後端にはヨーコントロールペダルによりコントロールされるダイレクトジェット噴出口があり、横方向のコントロールに使用される。
ホバリング中のエアロダイナミクスリフトと、ダイレクトジェットによる反トルク効果は50%程度であるが、前進飛行速度が40-95km/mぐらいでは、吹き降ろす風が斜めになるためにブーム側面のサーキュレーション・ジェットは効果を失い、後端からのダイレクト・ジェットだけが有効となる。ただ、このくらいの速度からは後端の垂直安定版が風を受けることでトルクを打ち消す効果が生じるため、エンジン駆動のファンを弱くして燃費向上に寄与することが出来る[11]。また、騒音や振動が少なくなるという利点もある。
ダクテッドファン
垂直尾翼に相当する部分に、複数のファンを埋め込んだダクテッドファンと呼ばれるタイプも存在する。これは、テールローター周りをダクトで囲むことによりテールローターブレードの翼端損失を減少させ、テールローターの効率を上げると同時に、回転部分に対する接触の危険を低減させたものである。
かつては仏アエロスパシアル特許でフェネストロン(商標)と呼ばれていた(特許期間満了済み)。
また、ダクテッドファンの中には、テールローターブレードを意識的に不等間隔に配列する事で、各ブレードが発生する固有の可聴音を意図的に変更し、各ファンが互いの可聴周波数を相殺するようにして騒音を低減させたタイプもある。この技術は、日本のタイヤメーカーによる騒音低減技術を流用したものと言われている。

テールローターの危険、その他

テールローターはメインローターと異なり、比較的低い位置にある場合、乗降時に人がテールローターに接触する危険がある。このためテールブーム(胴体からテールローターへつながる構造部分)の取付け位置を高くし、テールローターが低い位置にならないよう設計された機体もある。これらの機体は、テールローターに人が接触する危険性が低いので、機体後部に安全に近寄る事ができる。また、胴体後部に観音開きのドアを取り付ける事で人員や貨物の収容性が良くなり、ストレッチャー(担架)なども収容し易くなるため、ドクターヘリなどに好んで使用されている。

ヘリの飛行特性

旋回飛行

 前進飛行中に旋回を行う場合、右旋回ならサイクリック(操縦桿)を右へ倒し、機体を「右バンク」させると同時に、右ペダルを踏み込んで機首方向を変えるという操作を行なう。この時、バンク角に見合った適切なペダル操作を行い、機体が横滑りしないように旋回操作を行う。これらは、固定翼機と同様である。また、深いバンク角での旋回を行うと、鉛直方向の揚力が水平飛行時よりも不足し、高度が低下するので、CPレバーを引き、揚力の不足分を補う操作を同時に行う必要がある。

オートローテーション

 エンジン故障などによって動力を失ったヘリコプターでもすぐには墜落しないように、オートローテーション(自動回転)と呼ばれる飛行方法によって緩やかに降下できるよう工夫されている。それは、カエデの種子が風を受けてクルクルと回転しながら舞い降りるように、ゆっくりと降下する方法である。

オートローテーションは、エンジンとローターとを切り離して、機体の降下によって生まれる空気の流れからメインローターの回転力を得る飛行方法であり、推力を生むメインローターだけでなくテールローターや補機類も駆動される。基本的に、ヘリコプターはオートローテーションによって、全てのエンジンが停止しても安全に着陸することができる。ただし全ての飛行状態においてオートローテーションが行えるのではなく、前進速度や高度が不足している場合は、オートローテーションに移行する前に墜落してしまう可能性がある。パイロットは常にこれを念頭に置いて機体を操縦する必要がある。オートローテーションはヘリコプターの操縦に必須の技術とされており、ヘリコプターパイロットは必ずその訓練を受ける。技能試験では、規定高度から地上の規定の広さの中へ安全に模擬着陸できることが要求される。

オートローテーション自体は水平速度がゼロ(つまり垂直降下)であっても可能だが、軟着陸をするためには前進速度が必要である(前進するエネルギーをメインローターの回転エネルギーに変換し、降下率を下げて軟着陸する)。

なお、機体の重量が軽すぎると、オートローテーション時にコレクティブピッチ (CP) を最大(CP レバーを最も下)にしてもローターの回転数が上がらないので、ヘリコプターには最小飛行重量が定められている。

操縦操作

全エンジンが停止した場合にはローターの駆動力が失われるので、メインローターのブレードの迎角を通常飛行時のままにしているとメインローターの回転数が急速に減少してブレードが揚力を失ってしまう。回転数の低下を防ぐため直ちにCP(コレクティブピッチ)レバーを下げてブレードをフルダウンにすると共に、右ペダル(メインローターの回転方向が上方からみて反時計回りの場合)を踏み込んで機首方向を維持し、次いでサイクリック・ピッチ・スティック(操縦桿)を操作し、希望する前進速度を得る。なお、ローターの回転数はオートローテーション時の常用最大値と最小値の間になるように、CPレバーを操作(アップ:回転数減、ダウン:回転数増)し、限界値を超えないようにする。着地時はサイクリックレバーをわずかに引いて下降速度を低下させ(このときローター回転数が上昇するので、これもCPレバーで抑える)、接地直前にCPレバーを大きく引き上げて軟着陸する。

飛行回避領域/高度-速度包囲線図

高度-速度包囲線図(height-velocity-envelope、H-V線図)は、通常飛行からオートローテーションに安全に移行できる高度と速度との関係を表した図である。ヘリコプターが通常飛行からオートローテーションに移行するにはある程度時間がかかり、その間に高度が低下する。したがって、速度が低い場合は高度の制限が、高度が低い場合は速度の制限が設けられる。この制限内ではオートローテーションに移行しようとしても、適度の沈下率と前進速度を保つことができず、地面に安全に着陸することができない。双発エンジンの機体では、片発故障時に対してだけH-V線図が規定されていて、制限範囲は小さくなる。また、機種によっては機体重量が軽いときには制限範囲がなくなる場合もある。デッドマンズカーブ (dead man's curve) という別名もあるが、デッドが死を意味するので避けられ、現在はH-V線図と表記されることが多くなっている[8]

飛行速度の限界

前進飛行時
ブレードの対気速度は回転方位によって異なり、特に前進方位と後退方位(端的には機体の右に位置するか左に位置するか)ではその差が大きい。ブレードの迎角が同じであれば、揚力は速度の2乗に比例するので、左右のアンバランスが生じる。従って、前進方位にきた時には迎え角を小さくし、後退方位にきた時には迎角を大きくしてバランスをとる必要がある。これはブレードに周期的なピッチ変化(縦のサイクリックピッチ)を与えることによって行う。
限界速度付近
さらに速度が増加すると、後退側ではますます対気速度が減少し、かつ逆流領域も増加するので迎角をより大きくする必要があるが、迎角が失速角に達するとそれ以上は揚力を増加させることはできなくなる。一方前進側では前進速度と共に対気速度が増加し、ブレード上では音速を超える領域(端的には周速が速い先端部)が生じて衝撃波が発生し抵抗が急増する。従って、ローターを回転させるために必要なパワー(形状抗力パワー)は、後退側での失速による抵抗増大と相まって急増する。
限界速度
後退側ブレードでは、ほぼ全面が失速と逆流領域になって、揚力を発生させる事はほとんどできなくなる。そのため、前進側でもバランス上揚力を発生できないので、揚力を発生しているのは回転円面の前方と後方のみとなる。しかし、なおも速度が増加すると、それらの回転方位も失速が始まり、ローターはもはやヘリコプターを飛行させるだけの推力を発生できなくなる。これがヘリコプターの飛行速度限界であり、対気速度400km/h付近と見られている[15]
現実的な最高速度
飛行状態では、失速と衝撃波のため形状抗力パワーも非常に大きなものとなり、ローターの効率は低下する。また、大きな出力を必要とするので、エンジンとトランスミッションも大きく、重くなるなど、ヘリコプター全体の効率も低下する。従い純ヘリコプターでの対気最高速度は、経済性、現実性の観点から300km/h程度であるものが多い。

降下と着陸進入

水平飛行から降下への移行

水平飛行から降下へ移るのは、単に巡航高度を低高度に変更する場合と、引続き進入着陸を意図する場合がある。巡航高度を変更するだけの目的で降下する場合は、巡航速度を維持したまま降下するが、降下に引き続いて着陸を意図する場合は、着陸進入に適した降下速度にあらかじめ減速しながら降下に移る。

操作手順としては、まずCPレバーを下げて、機体に所望の降下率を与える。この時右ラダーペダルを踏んで(メインローターが上方からみて反時計方向回転の場合)、機体を横滑りさせないように操作しながら、サイクリック・スティックで所望の降下速度に調整をする。

一般にシングルロータのヘリコプタでは、CPを下げると機首が下がり、上げると機首が上がる傾向がある。従って、降下飛行に移行する場合は、機首下げによって速度が増えやすいので速度保持に注意しなければならない。

最終進入から着陸

着陸進入の形態には大別して次の3種類があり、着陸場所の地形や、離着陸機の混雑度を考慮してパイロットの判断で使い分けられる。

通常進入、高速進入、低速急角度進入

最終進入とは、着陸に対して最終的に着陸点に正対して直線進入降下飛行をいう。着陸スポットに確実に到達するために、自ら設定した経路、進入角を外れないように特に正確な操縦操作が要求される。

通常着陸進入

通常進入は、速度VY(最良上昇速度)、進入角6〜7度で開始する。正確な進入角に乗って降下した場合、対地高度150フィート(約50メートル)から着陸に備えて減速操作を始める。

減速降下中の速度と高度の関係は、そのヘリコプタの飛行規程に示されているH-V線図(高度-速度包囲線図 Height-Velocity Envelope)を考慮した諸元に従って操縦しなければならない。

VY以下に減速すると、減速につれて沈下が大きくなるので、CPを操作して進入角を保つ。着陸スポット上にホバリングするため一定の減速率で減速を続けるが、一般的に速度計は極低速(約20ノット以下)では信頼性に欠けるため、地面の流れなど、目視感覚で速度処理をしながらスポット上に、対地高度1 - 3メートルでホバリングし着陸進入を終了する。

高速進入着陸

飛行場のような障害物のない広い場所で、後続の進入機に早く進入コースを開放するなど、必要に応じて使用される進入方法である。速度約100ノットで、通常進入よりやや浅い4~5度の進入角で最終進入経路に入る。

対地高度150フィート(約50m)まで速度約100ノットを維持し、そこから急減速動作に入り着陸スポット上にホバリングする進入方法で、急減速過程では、減速のための機首上げ操作により、機体が上昇しないようにCPレバーを大きく下げなければならない。そして、次にホバリングに移るためCPレバーを大きく上げる操作が必要になる。

このため、ラダーペダルの操作もCPレバーの操作に合わせて、減速過程では大きく右ラダーを踏み、ホバリングに移行する時には、大きく左ラダーを踏んで機首方位を保たなければならない。

このように高速進入から急減速停止するために、機体姿勢が大きく変化する事になり、サイクリック・ピッチ・スティック操作による機体の動き(上昇または沈下)を見て、進入角と機首方位を維持するため、CPとラダーペダルの操作の切り替えのタイミングと操舵量を瞬間的に判断して、素早い操作が求められる。

機動飛行

従来のヘリコプターは、ローターブレードが全関節型や半関節型あったが、Bo105PAH-2 タイガーAH-64 アパッチOH-1などの無関節型を採用した機種が登場すると、宙返り、横転、インメルマンターンなどの機動飛行(曲技飛行)が行われ、実現可能であることが証明された。背面状態での飛行中には、ロータ迎え角 (Angle of Attack) を逆位置にして逆方向での揚力を得なければならないため、ローターの設計と共にCPも適切にデザインされている[16]

用途

人員輸送

貨物輸送

  • 郵便物輸送
  • 建設資材運搬
  • 救急資材輸送
  • 海上リグ物資輸送/離島物資輸送

農林水産産業

報道

監視等

軍事

その他

メインローターの回転方向

メインローターの回転方向は、上から見て米国製のヘリコプターでは反時計回り、欧州製では時計回りであることが多い(ドイツ製は反時計回り)。このため、ヘリパイロットが機種転換を行なう場合には異なった回転方向の機種では困難が伴う(トルクに変化があった場合、機体のヨーイング方向が逆になるため)。

また、メインローターの回転方向が逆になることで、テールローターの推力方向(風の吹出し方向)も逆になる。

東京消防庁では、操縦席とホイストの位置関係から、救助活動には時計回りのローターが有利との判断から、フランス製の機材を導入している。これは前出のカップリング効果により、ホバリング時にホイストがある右側へ機体が傾くことで、機長席からホイスト降下地点である直下が目視しやすいからである。

日本での耐空類別

「耐空性審査要領」には「耐空類別」として以下に分類されている。

  • 回転翼航空機普通N類 - 最大離陸重量3,175kg以下の回転翼航空機
  • 回転翼航空機輸送TA級 - 航空運送事業の用に適する多発の回転翼航空機であって、臨界発動機が停止しても安全に航行できるもの
  • 回転翼航空機輸送TB級 - 最大離陸重量9,080kg以下の回転翼航空機であって、航空運送事業の用に適するもの

[11] 軍用機は除く。

脚注

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注釈

  1. ^ 21世紀現在、ヘリコプター用のエンジンはターボシャフトエンジンが主力である。固定翼ジェット機のエンジン出力の制御がエンジンの燃料供給量の増減を主とするエンジン回転数制御によって行われているのに対して、新しいジェット・ヘリコプターのエンジン回転数制御は、基本的にパイロットは平常時においてはあまり関与せずにエンジン側の自動制御機構によって出力負荷の変動に対しても一定の回転数を維持するよう制御が行われている。

出典

  1. ^ MD500BK117Bo 105などの全関節、無関節型では可能。シーソーローターなどは不可能。
  2. ^ International Space Hall of Fame
  3. ^ Connor, R.D. and R.E. Lee. "Kaman K-225". Smithsonian National Air and Space Museum. 2001年6月27日。(2007年12月9日確認)
  4. ^ 片岡, 登志夫「100年前の人力ヘリコプター 発明家 丸岡 桂の「昇空器」」、『ミクロスコピア』、ミクロスコピア出版会、2003年夏。
  5. ^ 老舗を訪ねて 能楽書林, 神田法人会, http://www.kanda-hojinkai.com/information/sinise/sinise26.html 
  6. ^ a b わが国ヘリコプター黎明期の試み, 飛行機シンポジウム, http://book.geocities.jp/bnwby020/jpnhistory.html 
  7. ^ 日本ニュース 第258号 1945年10月7日公開。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 「ヘリコプタ」 社団法人 日本航空技術協会 ISBN 4-930858-45-3
  9. ^ : in-ground effect
  10. ^ : out-ground effect
  11. ^ a b c d e 鈴木英夫著 「図解ヘリコプター」 ブルーバックス 講談社 2001年10月20日発行第1刷 ISBN 4-06-257346-6
  12. ^ 防衛技術ジャーナル編集部 『航空機技術のすべて』 財団法人 防衛技術協会、2005年10月1日第1版第1刷発行、ISBN 4990029801
  13. ^ 独企業が開発の「電動マルチコプター」、有人飛行に成功
  14. ^ : notarno tail rotor
  15. ^ ギネス・ワールド・レコーズでは、1986年アグスタウェストランド リンクスが出した対気速度400.87km/hをヘリコプターの最高速度として認定している。
  16. ^ 軍事研究2007年10月号「ヘリコプター技術(その2)」

関連項目



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