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ヨウ素 (30683 views - Periodic Table Of Elements)

ヨウ素(ヨウそ、沃素、英: iodine)は、原子番号 53、原子量 126.9 の元素である。元素記号は I。あるいは分子式が I2 と表される二原子分子であるヨウ素の単体の呼称。 ハロゲン元素の一つ。ヨード(沃度)ともいう。分子量は253.8。融点は113.6 ℃で、常温、常圧では固体であるが、昇華性がある。固体の結晶系は紫黒色の斜方晶系で、反応性は塩素、臭素より小さい。水にはあまり溶けないが、ヨウ化カリウム水溶液にはよく溶ける。これは下式のように、ヨウ化物イオンとの反応が起こることによる。 I − + I 2 ⟶ I 3 − {\displaystyle {\ce {{I^{-}}+I2->I3^{-}}}} 単体のヨウ素は、毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている。
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ヨウ素

ヨウ素

ヨウ素
テルル ヨウ素 キセノン
Br

I

At
53I
外見
光沢のある黒色固体、気体は紫色
一般特性
名称, 記号, 番号 ヨウ素, I, 53
分類 ハロゲン
, 周期, ブロック 17, 5, p
原子量 126.90447
電子配置 [Kr] 4d10 5s2 5p5
電子殻 2, 8, 18, 18, 7(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 4.933 g/cm3
融点 386.85 K, 113.7 °C, 236.66 °F
沸点 457.4 K, 184.3 °C, 363.7 °F
三重点 386.65 K (113°C), 12.1 kPa
臨界点 819 K, 11.7 MPa
融解熱 (I2) 15.52 kJ/mol
蒸発熱 (I2) 41.57 kJ/mol
熱容量 (25 °C) (I2) 54.44 J/(mol·K)
蒸気圧斜方晶系
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 260 282 309 342 381 457
原子特性
酸化数 7, 5, 3, 1, -1(強酸性酸化物
電気陰性度 2.66(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 1008.4 kJ/mol
第2: 1845.9 kJ/mol
第3: 3180 kJ/mol
原子半径 140 pm
共有結合半径 139±3 pm
ファンデルワールス半径 198 pm
その他
結晶構造 斜方晶系
磁性 反磁性[1]
電気抵抗率 (0 °C) 1.3×107Ω·m
熱伝導率 (300 K) 0.449 W/(m·K)
体積弾性率 7.7 GPa
CAS登録番号 7553-56-2
主な同位体
詳細はヨウ素の同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
123I syn 13 h ε/γ 0.16 123Te
127I 100 % 中性子74個で安定
129I trace 15.7×106 y β- 0.194 129Xe
131I syn 8.02070 d β-/γ 0.971 131Xe

ヨウ素(ヨウそ、沃素、: iodine)は、原子番号 53、原子量 126.9 の元素である。元素記号I。あるいは分子式が I2 と表される二原子分子であるヨウ素の単体の呼称。

ハロゲン元素の一つ。ヨード(沃度)ともいう。分子量は253.8。融点は113.6 ℃で、常温、常圧では固体であるが、昇華性がある。固体の結晶系は紫黒色の斜方晶系で、反応性は塩素臭素より小さい。にはあまり溶けないが、ヨウ化カリウム水溶液にはよく溶ける。これは下式のように、ヨウ化物イオンとの反応が起こることによる。

単体のヨウ素は、毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている。

発見史

ベルナール・クールトアによって1811年に海藻灰から発見された[2]。彼の友人シャルル・ベルナール・デゾルム(fr:Charles-Bernard Desormes)とニコラ・クレマン (fr:Nicolas Clément (chimiste)) がジョゼフ・ルイ・ゲイ=リュサックアンドレ=マリ・アンペールにサンプルを送った上で1813年11月29日に発表した。

ゲイ=リュサックは12月6日にこの物質が元素もしくは酸化物であると発表した。アンペールからサンプルを提供されたハンフリー・デーヴィーは実験によりこの物質が塩素の性質に類似する事を発見し、王立協会宛の12月10日付の手紙で、この物質が元素であることを発表した。

地球上での分布

現在の地球上には 8.7 × 1012 トンが存在し、その約70%が海底堆積物に含まれていると考えられている[3]

地球表層でのヨウ素の分布[4]
海水 7.0×1010t 0.8%
海底堆積物 5.9×1012t 8.2%
海洋地殻 5.4×1010t 0.6%
堆積岩 2.4×1012t 27.7%
火成岩及び変成岩 2.3×1011t 2.7%

地球が誕生してから大気中の遊離酸素が増加するまでの期間のヨウ素は -1価のヨウ化物イオン()として存在していたと考えられている。その後、大気中の遊離酸素濃度が増加すると有機ヨウ素や +5価のヨウ素酸イオン()として存在している。

海洋と大気中には揮発性有機ヨウ素(ヨードメタン )として広く分布している[5]が、どの様なバクテリアが関わっているのかは十分に解明されていない[4][5]

用途

分析化学

ヨウ素溶液にデンプンを加えると、ヨウ素デンプン反応を起こし藍色を呈する(デンプンは微量でも鋭敏に反応する。ヨウ素デンプン反応を参照)。この反応はヨウ素滴定(ヨードメトリー)に利用される。また、小学校中学校理科実験においては、デンプンを簡易的に検出できる試薬として多用されている。分析化学では、脂質などの有機化合物に含まれる炭素-炭素二重結合の量の指標としてヨウ素価が用いられる。また試料中の水分量を決定するための方法としてカール・フィッシャー滴定が知られている。

消毒薬

ヨウ素は消毒薬としてもよく用いられる。ヨウ素のアルコール溶液がヨードチンキである。ヨウ素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液がルゴール液である。ヨウ素とポリビニルピロリドンの錯化合物はポビドンヨードとして知られる。

生体とヨウ素

体内で甲状腺ホルモンを合成するのに必要なため、ヨウ素はにとって必須元素である。人体に摂取、吸収されると、ヨウ素は血液中から甲状腺に集まり、蓄積される。なお、このヨウ素の吸収はゴイトロゲンと呼ばれる食品群や化学物質などにより阻害されることに注意が必要である。

欠乏と過剰

日本での摂取状況

海藻類はヨウ素を海水から濃縮しており、海洋の中にある日本では食生活の中で海藻などから自然にヨウ素の摂取が行われている。また、日本ではヨウ素を含有することをうたった鶏卵が売られている。

厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によると、ヨウ素の推奨量は成人で約130 µg/日、ヨウ素の耐容上限量は約2.2 mg/日としている[7]。コンブは大量にヨウ素を含み、素干しコンブわずか1gでヨウ素の耐容上限量約2.2 mg/日に達する。北海道での海岸性甲状腺腫はヨウ素の過剰摂取が原因であると考えられている。半面、ヨウ素の抗腫瘍作用を利用するため少なくとも3 mg/日を摂取すべきとの説も存在する[8]

ヨウ素制限食を必要とする際には、逆にコンブなど海藻の摂取を控えなくてはならない。

食品1グラムあたりのヨウ素含有量[9]
食品 含有量 (μg/g)
昆布(素干し) 2100-2400
昆布(刻み昆布) 2300
ひじき 470
昆布(佃煮) 110
カットわかめ 85
昆布だし(液体) 19-82 [9][10]
焼きのり 21
わかめ(生) 16
ヨード卵 10-20 [10]
めかぶ(生) 3.9
ビーフカレー
(レトルト)
3.7
ポテトチップス 2.6
ヨウ素推奨摂取量(米国FNB)[11]
(日本の推奨量はヨウ素解説を参照)
年齢/性別など 推奨量 RDA
(μg/日)
上限 UL
(μg/日)
幼児(0-1歳) 110-130 未定義
子供(1-8歳) 90 200-300
子供(9-13歳) 120 600
成人(14歳以上) 150 900-1100
成人女子(妊娠期) 220 900-1100
成人女子(授乳期) 290 900-1100

海外での摂取状況

大陸の中央部ではヨウ素を摂取する機会がほとんどないので、ヨード欠乏症による甲状腺異常が多く発生した。アメリカではFDAの規定により食塩の中に一定量のヨウ化ナトリウムが混入させてある。また、モンゴルでは日本からの援助で国民にヨウ素剤を服用させた結果、甲状腺異常の患者を激減させた。アメリカのほかにスイスカナダ中国などでは食塩にヨウ素の添加を義務付けている[12]

貿易上の課題

一方で、食習慣の違いなどで、豪州では日本から輸入された高濃度のヨウ素(昆布エキス)を含む食品による健康被害も報告されており[13]、提訴にいたるケースもある[14]。反対に、日本では食品衛生法上ヨウ素を添加することが認められておらず、香港では粉ミルク内に含まれるべきヨウ素の量がCODEX基準に達していないと日本産製品が指摘されたことがある。[15]

放射性ヨウ素

チェルノブイリ原子力発電所の事故では、核分裂生成物の 131I放射性同位体)が多量に放出されたが、これが甲状腺に蓄積したため、住民に甲状腺ガンが多発した。放射能汚染が起きた場合、放射性でないヨウ素の大量摂取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で飽和させる防護策が必要である(ヨウ化カリウム#用途ヨウ素剤参照)。そのため、日本は国民保護法に基づく国民の保護に関する基本指針により、核攻撃等の武力攻撃が発生した場合に武力攻撃事態等対策本部長又は都道府県知事が、安定ヨウ素剤を服用する時期を指示することになっている。なお、独立行政法人放射線医学総合研究所は、たとえヨウ素を含んでいてもうがい薬や消毒剤など、内服薬でないものは「安定ヨウ素剤」の代わりに飲んだりしないようにとしている[16][17]

世界保健機関 (WHO) の飲料水中の放射性核種のガイダンスレベルは平常時の値は10 Bq/Lで原子力危機時の誘導介入レベル(介入レベルを超えないように環境汚染物質や汚染食品の摂取、流通を制限するため、二次的に設定される制限レベル、「暫定規制値」とも言う)であり、国際原子力機関は介入レベル(敷地外の一般公衆が、過度の被曝を生ずる恐れのある場合は、実行可能な限り、被曝低減のための対策をとることが必要となる。その判断の基礎となる線量)を3,000 Bq/Lとしているが、平常時の値や誘導介入レベルは定めていない[18]。日本では一定の基準は無くWHOの基準相当[19]を守っていた。しかし2011年東北地方太平洋沖地震における福島第一原子力発電所事故の影響から、放射性ヨウ素の飲料水中及び牛乳・乳製品中の暫定規制値を300 Bq/kgと定めた[20][21]

または、ヨウ素が甲状腺に集まる性質は、画像診断法の一つである甲状腺シンチグラフィに利用される。甲状腺シンチグラフィではヨウ素の同位体のうち123I などを用いる。

資源

ヨウ素は海水中に0.05 ppm (0.000005 %) 含まれ、推定資源量は3億4千万トンである。ヨウ素は生物濃縮される元素で、海藻の灰から抽出され0.45 %以上のヨウ素が含有される。かつては海藻を原料に工業的に生産されたが、1959年以降は工業的には、天然ガス[22]チリ硝石石油の副産物として生産されている。

工業的にはヨウ化ナトリウムを含む地下水などヨウ化物イオンを含む水溶液を酸性条件下で塩素を吹き込み、酸化されたヨウ素単体を昇華精製する。

米国地質調査所の2005年版統計[23]によると、全世界のヨウ素の生産量は約25,500トンである。その内訳は、一位のチリが16,200トン、二位の日本国6,500トンであった。国連統計局の2002年度統計[24]によると、輸出量はリサイクルされたものも含めて一位のチリが$447,612,776、二位の日本国が$195,847,819であった。

2008年度日本国内生産量は9,231トン、工業消費量は3,288トンであり[25]、日本のヨウ素生産量のほとんどは千葉県の水溶性天然ガス鉱床(南関東ガス田)から産出する地下水から生産されており[26]、資源小国である日本にとっては貴重な輸出資源である。

  2002年輸出金額 ($) 2002年生産量(トン)
チリ 447,612,776 10,500
日本 195,847,819 6,100
アメリカ合衆国 51,136,966 1,700
ベルギー 137,773,860 -
その他 43,569,769 1,300
875,941,190 19,600

化合物

ヨウ素と水素の化合物(ヨウ化水素)は強酸性を示す。

ヨウ素のオキソ酸

ヨウ素のオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。

オキソ酸の名称 化学式 (酸化数) オキソ酸塩の名称 備考
次亜ヨウ素酸
(hypoiodous acid)
(+I) 次亜ヨウ素酸塩
( - hypoiodite)
亜ヨウ素酸
(iodous acid)
(+III) 亜ヨウ素酸塩
( - iodite)
未確認
ヨウ素酸
(iodic acid)
(+V) ヨウ素酸塩
( - iodate)
ヨウ素酸塩は危険物第1類
過ヨウ素酸
(periodic acid)
(+VII) 過ヨウ素酸塩
( - periodate)

オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

同位体

  • 131I は核分裂によって生成される。半減期は8.1日で、ベータ崩壊すると半減期11.8日の131mXeとなる。なお、1日後で最初の90 %になり、8日後で50 %、30日後で1/13、60日後で1/170、90日後で1/2200となる。
  • 129I は半減期が1570万年である。宇宙線やウランの自発核分裂によって常に一定量が大気中に放出されている。
  • 127I は通常のヨウ素で常に海水中に一定量が存在する。
  • 129I/127I は天然存在比1500×10-15と推定される。生物に取り込まれたヨウ素の同位体の比率により年代を求めることが可能である。千葉県の地下水鹹水)に含まれるヨウ素の年代は4890万年前と推定される。プレートと共に沈み込んだ海底堆積物が上昇してきた付加体と推定される[27][28][29]

参照資料

脚注

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  1. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. ^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社1998年、240頁。ISBN 4-06-257192-7 
  3. ^ 村松康行、ヨウ素を通して見た地球・環境・生物 (PDF) Isotope News 2005/5
  4. ^ a b 岡部宣章、「海水・地下流体におけるヨウ素の化学形態及び同位体比に関する地球化学的研究」 学習院大学大学院 博士論文 甲第244号, hdl:10959/3692
  5. ^ a b 天知誠吾、ヨウ素の地球化学と微生物 : ヨウ素の揮発,濃縮,酸化,還元,吸着,脱ハロゲン化反応を触媒するバクテリア 地球化学 Vol.47 (2013) No.4 p.209-219, doi:10.14934/chikyukagaku.47.209
  6. ^ a b 宮井潔、ヨウ素と甲状腺 栄養学雑誌 Vol.51 (1993) No.4 P.195-206, doi:10.5264/eiyogakuzashi.51.195
  7. ^ 「日本人の食事摂取基準」(2010年版)6.2.5 ヨウ素 (PDF) 厚生労働省
  8. ^ 布施 養善 「ヨウ素をめぐる医学的諸問題-日本人のヨウ素栄養の特異性」 『Biomedical Research on Trace Elements』Vol.24 (2013) No.3 p.117-152
  9. ^ a b 食品成分ランキング”. 2016年3月2日閲覧。
  10. ^ a b 日本で市販されている食品中のヨウ素含有量”. 日本衛生学雑誌. p. 729 (2008年9月). 2016年3月4日閲覧。
  11. ^ Iodine”. 2016年3月2日閲覧。
  12. ^ 山田洋介 ヨウ素添加を義務付けている国(新刊JP) エキサイトニュース 2011年4月27日
  13. ^ 高濃度のヨウ素を含有する豆乳製品について (pdf)”. 食安監発0204第5号. 厚生労働省 (平成22年2月4日). 2016年3月2日閲覧。
  14. ^ 昆布ヨウ素 豪で健康被害の集団提訴 MSN産経ニュース 2013年1月23日
  15. ^ 香港食物環境衛生署食物安全センター、「乳幼児用調製粉乳中のヨウ素」の専用ページを開設 (html)”. 食品安全総合情報システム (平成24年8月10日). 2016年3月5日閲覧。
  16. ^ ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません -インターネット等に流れている根拠のない情報に注意 (PDF) 放射線医学総合研究所
  17. ^ 「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」
  18. ^ 世界保健機関 (2011年3月31日). “水道水汚染について (pdf)”. 2011年4月4日閲覧。
  19. ^ 世界保健機関 (2004年). “WHO飲料水水質ガイドライン (pdf)”. 2011年3月29日閲覧。
  20. ^ 厚生労働省 (2011年3月17日). “放射能汚染された食品の取り扱いについて (pdf)”. 2011年3月29日閲覧。
  21. ^ 飲食物摂取制限 (HTML)”. 原子力百科事典 (ATOMICA). 財団法人 高度情報科学技術研究機構 (2010年12月). 2011年4月4日閲覧。
  22. ^ 亀井玄人、茂原ガス田の地下水に含まれるヨウ素の起源と挙動 資源地質 Vol.51 (2001) No.2 P.145-151, doi:10.11456/shigenchishitsu1992.51.145
  23. ^ Mineral Commodity Summaries
  24. ^ Commodity Trade Statistics Database
  25. ^ 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計 平成20年年計による
  26. ^ ヨードについて - 資源大国 ニッポン - 関東天然瓦斯開発株式会社
  27. ^ アイソトープニュース2002年12月号P7-11
  28. ^ 放医研ニュース2001年12月号P1-2
  29. ^ Earth and Planetary Science Letters 192(2001)583-593

関連項目



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Periodic Table Of Elements

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