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古典力学
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運動の第2法則
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歴史(英語版)
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慣性モーメント(かんせいモーメント、英: moment of inertia)あるいは慣性能率(かんせいのうりつ)、イナーシャ I とは、物体の角運動量 L と角速度 ω との間の関係を示す量である。
定義
質点系がある回転軸まわりに一様な角速度ベクトル ω で回転するとき、質点系の持つ角運動量ベクトル L は次のように書ける。
[1]
ここでmi は i 番目の質点の質量、ri は回転軸上の原点との相対座標である。
この式からわかるように、L は ω と向きは必ずしも一致しないが、 |ω| に比例する。つまり、 ω は線形変換 I により L に移される。よって、I は行列により表現することができ、以下のように定義できる。
この定義から、 I が対称行列であること、またその成分は二階のテンソルとして変換することがわかる。この二階のテンソル I を慣性モーメントテンソル、または簡単に慣性テンソルと呼ぶ[2]。
また、Ixx、Iyy、Izz を(それぞれ x、 y、 z 軸に関する)慣性モーメント係数(英: moment of inertia coefficient)と呼び、
Ixy、Iyz、Izx は 慣性乗積(英: products of inertia)と呼ぶ。
ある軸まわりの慣性モーメント
物体をある回転軸まわりに回転させたとき、ωと同じ向きをもつ単位ベクトルnをもちいると、回転軸にそった角運動量成分は次のように与えられる。
ここで、ω = |ω|は角速度の大きさである。
ここに与えられたスカラー量
をその軸まわりの慣性モーメントと呼ぶ[3]。
慣性主軸と主慣性モーメント
慣性テンソル行列は実対称行列なので、適当な直交座標系 {e1, e2, e3} を選ぶことで対角化(すなわち Ixy = Iyz = Izx = 0 と)することができ、そのときの座標軸を慣性主軸、慣性モーメント {I1, I2, I3} を主慣性モーメントと呼ぶ。慣性主軸座標系では角運動量は

と単純に表すことができる。
計算例
質点
N 個の質点がその相対位置を変えずにある回転軸まわりに回転運動する場合、その系のもつ回転軸まわりの慣性モーメントは、
で求められる。mi は i 番目の質点の質量、di は回転軸からの距離であり、
を満たす。
いま、質点 i が、回転軸から距離 di の位置で角加速度 dω/dt で運動する場合、質点 i の周方向の速度が vi = di ω となることから、質点 i が受けている力 fi は、

となる。トルクの定義により、これに di を乗ずれば質点 i にはたらくトルク ti を求めることが出来る。すなわち

となる。回転体の全ての質点にかかるトルクの総和が総トルク T だから、

となる。
棒の両端の質量
重さの無視できる長さ L の棒の両端に、質量 m 、M の物体がくっついたものを考える。棒の適当な位置に回転の中心となる点を定め、そこから両端までの腕の長さをそれぞれ a、L - a とする。このとき、中心に対する慣性モーメント I は、

と、計算される。この式から分かるように、慣性モーメントは、中心(回転軸)のとり方によってその値が変わる。中心として系の重心をとったとき、慣性モーメントは最小となる。すなわちもっとも回しやすい。
連続体
連続体の慣性モーメントは、
で求められる。 r は中心軸からの距離、dm は微小質量、ρ は密度分布である。
剛体に対しては、慣性モーメントを質量で正規化して、円板、円筒などの幾何学形状だけで決まる定数式を算出して一覧表としておき、これに質量を乗じて慣性モーメントを算出することが多い。
円板
半径 a 、全質量 M の、一様な密度 ρ = M / πa2 をもつ円板の、中心軸まわりの慣性モーメントは
となる。
これは中心から半径 r 、幅 dr << r のリングの質量 dM を考えると
より、このリングの慣性モーメント dI が
だから
より求めることができる。
リング状円板
円板外径 a 、くり抜き内径 b 、全質量 M のリング状円板では、前出の dI を用いて
となる。
性質
一般に、剛体の慣性モーメントは、剛体の質量に比例し、質量が軸から遠くに分布しているほど大きくなる。
また、回転軸が重心を通るとき慣性モーメントは最小値 IG をとり、軸が重心から距離 h だけ離れている場合、その軸の周りの慣性モーメント Ih は
となる[4]。
関連する物理量
- 回転半径
- 慣性モーメント I は物体の質量 M に比例するから、

- と書くことができる。この κ は長さの次元を持ち、回転半径と呼ばれる[4]。
- はずみ車効果
- 慣性モーメントと同じ意味を持つ物理量として、直径 D を用いて定義されるはずみ車効果 GD2 がある。
- 重力単位系では、剛体の重量 G[kgf] と直径 D[m] を用いた量 GD2 をはずみ車効果と呼び、単位は [kgf m2] である。慣性モーメント I とは次元が異なり、GD2 = 4gI で換算する(g は重力加速度)[5][6][7]。
- SI単位系では、剛体の質量 G[kg]と直径 D[m] を用いた量 GD2 をはずみ車効果と呼び、単位は [kg m2] である。慣性モーメント I と、GD2 = 4I で換算する[8][9][10][11][12]。
応用
工学での応用として、回転軸に慣性モーメントの大きい回転体を取り付けた装置をフライホイール(はずみ車)という。これは、回転速度の急激な変化を抑止したり、回転によるエネルギーを保存する目的で使用される。
参考文献
脚注
関連項目