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鋼(はがね、こう、釼は異体字、英: steel)とは、炭素を0.04~2パーセント程度含む鉄の合金。鋼鉄(こうてつ)とも呼ばれる。強靭で加工性に優れ、ニッケル・クロムなどを加えた特殊鋼や鋳鋼等とあわせて鉄鋼(てっこう)とも呼ばれ、産業上重要な位置を占める。
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鋼

Licensed under Creative Commons Attribution 2.0 (Alicia Nijdam).

はがね、こう、は異体字、: steel)とは、炭素を0.04~2パーセント程度含む合金鋼鉄(こうてつ)とも呼ばれる[1]。強靭で加工性に優れ、ニッケルクロムなどを加えた特殊鋼鋳鋼等とあわせて鉄鋼(てっこう)とも呼ばれ、産業上重要な位置を占める。

語源

日本語の「はがね」の由来は刃物に用いる金属を意味する「刃金はがね」である。かつて鋼とは焼入れによって硬化する鉄合金をさし、鉄器時代以来、鍛造鍛接、熱処理や研磨技術によって刃物類が製作されてきた。ここを原点にさまざまな鉄合金が発達し、そのつど鋼の定義は拡大解釈されて現在に至っている。 現在では刃物専用以外でも、精錬技術によって造られた鉄鋼材全般をはがね鋼鉄こうてつと呼び、錬鉄鋳鋼などを含めることがある。

鉄鋼はドイツ語の「Eisen und Stahl」の訳が語源とされているが、日本で最初に「鉄鋼」という呼び名が使われたのは雲伯鉄鋼合資会社(現・日立金属安来工場)の社名が原点とされている[要出典]。雲伯鉄鋼合資会社による鉄鋼製品の源流は「たたら製鉄」であるが、ここでいう「鉄鋼」とは新案特許「製鋼法」(明治39年(1907年)取得)からなる錬鉄をさし、新特許法の錬鉄(伊部式包丁鉄と言う)が出発となる。

定義

鉄の性質は、含まれる炭素の量で大きく変化する。鉄鉱石を溶解したものを銑鉄といい、4%から5%の炭素を含む。これをそのまま鋳型に流したものが「鋳物」とも呼ばれる鋳鉄である。鋳鉄はもろくて可塑性がなく、鎚で叩いたり、曲げたりすると割れてしまう。

もろい銑鉄から炭素を除去すると、鉄は強靭になるとともに可塑性を持ち、叩いて整形(鍛造)したり、曲げたり、延ばしたりの加工が可能になる。この炭素の少ない鉄が鋼鉄である。

現在の金属学の定義では、Fe-C系2元合金において、C含有量が0.0218 - 2.14%の範囲にある部位である。言い換えると、フェライトのC最大固溶量(0.0218%)からオーステナイトのC最大固溶量(2.14%)までの範囲の部位とも定義できる。Fe-C系2元合金において、C含有量が0.0218%以下のものをと呼び、2.14[mass%]以上のものを鋳鉄と呼ぶ。一方で、極低炭素鋼ステンレス鋼のように炭素の添加がなされない鉄も「鋼」と呼ばれる[2]。国際規格の ISO 4948-1 では、一般的に2.0%以下の含有量の炭素と他の元素を含む鉄の合金を鋼 (英語:steel、フランス語:acier) 定義している[3]

歴史

世界で初めて鋼を開発したのは、紀元前1400年ごろのヒッタイトであると考えられている。ヒッタイトはを使って鉄を鍛造することにより鋼を製造し[4]アナトリアを中心に鉄を主力とする最初の文明を築いた。この製法は厳重に秘匿されていたものの、前1200年のカタストロフと呼ばれる大動乱によって紀元前1190年頃にヒッタイトが滅亡すると、製鋼技術はヒッタイトを滅ぼした海の民や、エジプトメソポタミアといった近隣の諸国へと伝播し、さらにそこから遠方へと伝わっていった。

産業革命以前の世界においては各国で鋼が製造されたが、なかでも最も名高かったものはインドにおいて生産されるウーツ鋼であった。ウーツ鋼はインド国内で消費されるほか、中東方面へも盛んに輸出され、とくにシリアダマスカスにおいて刀剣に加工されたものは非常に高い評価を受けていた[5]。このことから、ウーツ鋼はダマスカス鋼という名前で広く知られるようになった。ウーツ鋼はるつぼによって生産されたが、19世紀初頭までには生産が途絶え、現代においては製法は失伝している。日本においてもたたら製鉄によって玉鋼と呼ばれる鋼が生産され、主に日本刀の原料として使用された。ウーツ鋼や玉鋼に見られるように、近代以前の世界において鋼の主な使用法は、硬度の要求される刀剣の材料としてのものであったが、16世紀以降、オスマン帝国で鋼は銃の砲身に使用されるようになり、この製法はムガル帝国にも伝わった[6]。しかし、大量に生産することはどこの文明圏においてもできなかった。18世紀に入るとイギリスで徐々に製鋼法の改善がはじまり、1740年代にはベンジャミン・ハンツマンによってるつぼを使用して良質の鋼が作られたものの、これは量産することは不可能であった。この後も様々な鋼の生産法が開発されるものの、真に工業的に大量生産ができるようになるのにはヘンリー・ベッセマーによる1856年の転炉法の発明を待たねばならなかった。

製鋼法

鋼の生産は、先ず赤鉄鉱磁鉄鉱など採掘された酸化鉄である鉄鉱石高炉還元させて銑鉄を得る。縦長の高炉上部から、鉄鉱石・コークス石灰石を投入し、下部から熱ガスと空気を送り込んで800℃以上を維持するよう燃焼させる。これにより、コークスから発生する一酸化炭素が酸化鉄を還元させて銑鉄が得られる。この工程は高炉の耐久性限界まで連続して行うのが通例である[7]

高炉で得られた銑鉄に含まれる炭素など不純物を次の製鋼工程で取り除く。ここでは、ケイ素リン硫黄などを除去し、炭素の含有率が0.5 - 1.7%程度に調整される。この方法には転炉平炉がある[7]

転炉(転炉製鋼法)は1856年イギリスの発明家ヘンリー・ベッセマーが開発した。彼の名を取ってベッセマー法と名づけられた本技術によって初めて鉄鋼の大量生産が可能となった。このベッセマー転炉においては、珪石製の煉瓦を内部に張った炉に銑鉄を入れ加熱空気を送ると不純物や余分な炭素が燃焼(酸化)して除去できる。この方法によって20トンの製鉄を30分以下で行うことが可能となった。発明当初の技術ではリンの除去は不可能であったが、1887年にシドニー・ギルクリスト・トーマス白雲石粉末を裏張りした転炉を用いる方法を開発し、このトーマス転炉においてリンをリン酸カルシウム溶滓(ようさい)として分離させることが可能となった。この溶滓は肥料に転用された。現在では1946年にオーストリアで開発された空気の代わりに酸素を用いるLD転炉法が主流となっている[7]。また、1949年にはそれまで底から酸素を送り込んで不純物を除去していたものが、上から酸素を吹きつけるだけでも撹拌が起きて不純物が除去されることがわかり、上部から酸素を送り込む工法が主流となった。しかし上部からの酸素だけでは撹拌が弱くなるため、1970年代にはふたたび底吹きが主流となる。しかし今度は上部の温度が上がりにくくなるという欠点が現れ、結局1980年代以降は上部からの酸素供給を基本とし、底部から補助的に空気を送り込む混合式の吹込みが主流となった[8]

平炉は反射炉の一種で、1856年にシーメンス兄弟(カール・ウィルヘルム・シーメンスとフレデリック・シーメンス)によって炉の構造が発明され、マルタン父子(ピエール・ マルタンとエミール・マルタン)によって製鋼法が発明された[9]ことから、両者の名を取ってシーメンス・マルタン法と呼ばれる。鉄鉱石と屑鉄(スクラップ)を混合し加熱して不純物を酸化・除去し、適度の炭素を残す。熱源は電気アークである[7]。しかし平炉法は冷えた材料の加熱を行うため、初期のものは鋼の製造まで10時間を要した。1960年代には3時間まで時間が短縮されたものの、転炉はこの過程を30分で行えるため勝負にならず、日本では1960年代以降この方式での製鋼は行われていない[10]

このほかにスクラップを用いる電気炉生産方式(電気炉製鋼法)がある。日本での生産割合は、転炉製鋼法が約75%、電気炉製鋼法が約25%である。

日本古来の砂鉄からの製鋼法を「たたら吹き」と呼び、日本刀の原料となる玉鋼が製造される。日立金属が極少量の生産を続けているが、生産された玉鋼は指定された日本刀の刀工にのみ配布され、一般には流通しない。

強化法

一般に、金属材料の降伏強さを向上するためのメカニズムには、大別して「固溶強化」「析出強化」「転位強化」「結晶粒微細化強化」の4つが存在する[11][12]。これらの機構を適用して、鋼の強化も行われる[11]塑性変形は結晶中の転位の動きによって起こる[12]。4つの強化機構は、いずれも転位の動きやすさを低下させるように働き、それによって鋼を強化させる[11]

鋼の種類

鋼の特長は、まず鉄に軽微な合金化を行うことにより強靭な固体材料を生成できること、資源が豊富であり酸素との親和性が比較的低いため安価に精錬ができることにある。別元素の固溶限が大きく合金化しやすいため、多様な鋼種が開発されてきた。

ケイ素 (Si) を添加した電磁鋼、ニッケル (Ni) やマンガン (Mn) を添加した非磁性鋼、クロム (Cr) やニッケル (Ni) を添加したステンレス鋼など、さらに工具鋼高速度鋼など、さまざまな用途に適した鋼種がある。

鉄鋼材料は各観点からいろいろな名前で呼ばれ、分類法によっては同じものが別の名前で呼ばれることがある。 鋼はその用途ごとに鋼種の改良が進んできた。例えばJISの分類も、などの合金が比較的成分の系列にしたがって命名されているのに比べ、用途や製法、強度区分、炭素量を示すものなどがあり、解りにくいものになっている。

例えばS45Cという鋼種は炭素量0.45%の鋼をいい、SUJ(軸受鋼)は、ボールベアリングの内外輪に使われる鋼種であるということを示す。

さらに、各国の規格において鋼種の呼称が異なっている。例えば

  • S45C (JIS)、1045、(SAE/AISI)、C45 (DIN)
  • SKH10 (JIS)、T15 (AISI/ASTM)、S12-1-4-5 (DIN) である。

成分からの分類

鉄鋼には様々な種類が存在する。ここに代表的なものを列挙する。

炭素鋼と合金鋼は、成分からの分類では、以下のようにさらに細かく分類できる。

  • 炭素鋼(JIS記号:S○○C)
    • 低炭素鋼(炭素含有量が約0.3%以下)
    • 中炭素鋼(炭素含有量が約0.3 - 0.7%)
    • 高炭素鋼(炭素含有量が約0.7%以上)

また、

  • 極軟鋼
  • 軟鋼
  • 半軟鋼
  • 硬鋼
  • 最硬鋼

という分類もある。

  • 合金鋼
    • 低合金鋼
    • 中合金鋼
    • 高合金鋼

また、炭素鋼は、組成(標準組織)や炭素濃度の上から以下のように分類できる。

性質からの分類

用途からの分類

JIS規格ではこの分類法が用いられている。

形状からの分類

  • 条鋼
  • 鋼板
    • 薄板(厚さ3mm未満のもの)
    • 中板(厚さ3mm以上、6mm未満のもの)
    • 厚板(厚さ6mm以上、150mm未満のもの)
    • 極厚板(厚さ150mm以上のもの)
  • 鋼管

加工法

表面硬化処理及び表面処理例

世界の主要鉄鋼メーカー

主要な鉄鋼メーカーを、粗鋼生産量順(2012年)に並べた。

脚注

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  1. ^ 三省堂. “鋼鉄とは 大辞林 第三版の解説”. コトバンク. 朝日新聞社/VOYAGE GROUP. 2017年6月24日閲覧。
  2. ^ 田中 2015, p. 478.
  3. ^ ISO 4948-1:1982, Steels — Classification — Part 1: Classification of steels into unalloyed and alloy steels based on chemical composition. https://www.iso.org/standard/10963.html
  4. ^ 「文明の誕生」p128-129 小林登志子 中公新書 2015年6月25日発行
  5. ^ 『世界文明における技術の千年史 「生存の技術」との対話に向けて』p137 アーノルド・パーシー 林武監訳、東玲子訳、新評論、2001年6月。ISBN 978-4-7948-0522-5
  6. ^ 『世界文明における技術の千年史 「生存の技術」との対話に向けて』p138-139 アーノルド・パーシー 林武監訳、東玲子訳、新評論、2001年6月。ISBN 978-4-7948-0522-5
  7. ^ a b c d 大澤p.83-86 Ⅱ.金属の材料 3.鉄鋼 3.2.転炉と平炉
  8. ^ 新日鉄住金 2004, pp. 68–69.
  9. ^ http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/31412/1/sk016009002.pdf 「平炉法の発明の経過」p245-247(「生産研究」第16巻第9号、1964年)中沢護人
  10. ^ 新日鉄住金 2004, pp. 67–68.
  11. ^ a b c 谷野・鈴木 2013, p. 117.
  12. ^ a b 高木 1997, p. 675.

参考文献

  • 大澤直 『金属のおはなし』 日本規格協会、2008(初刷2006)、第一版第四刷。ISBN 4-542-90275-6
  • 『日本の鉄鋼業』(日本鉄鋼連盟、2013年)
  • 谷野 満・鈴木 茂、2013、『鉄鋼材料の科学 : 鉄に凝縮されたテクノロジー』第3版、 内田老鶴圃〈材料学シリーズ〉 ISBN 978-4-7536-5615-8
  • 新日鉄住金株式会社(編著)、2004、『カラー図解 鉄と鉄鋼がわかる本』第1版、 日本実業出版社 ISBN 978-534-03835-7
  • 田中 和明、2015、『図解入門 最新金属の基本がわかる事典』第1版、 秀和システム〈図解入門シリーズ〉 ISBN 978-4-7980-4431-6
  • 高木 節雄、1997、「鉄の強化機構と限界強度」、『まてりあ』36巻7号、日本金属学会、doi:10.2320/materia.36.675 pp. 675–679

関連項目


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